後遺障害が認定されない5つの理由|認定されるための対処法とは
交通事故による怪我が完治せず、何らかの後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害等級認定の申請を行うことができます。しかし、後遺障害等級認定の申請をしたとしても、必ず希望する後遺障害等級の認定を受けられるわけではありません。
万が一、後遺障害が「非該当」になってしまった場合には、慰謝料や逸失利益の支払いを受けられず、賠償額に大きな差が生じることもあります。そのため後遺障害が認定されない理由と認定されなかったときの対処法をしっかりと理解しておくことが大切です。
今回は、後遺障害が認定されない5つの理由と適切な後遺障害認定を受けるための対処法について解説します。
目次
後遺障害で認定されない理由
後遺障害等級認定の申請をしたとしても、必ず等級認定を受けられるとは限りません。後遺障害等級が認定されない理由には、以下のものが考えられます。
後遺障害診断書の不備
後遺障害等級認定の手続きは基本的には書面審査になるので、後遺障害診断書の記載内容が重視されます。後遺障害診断書にはさまざまな記載事項があり、それらに不備や不足があると、適正な後遺障害認定を受けられない可能性があります。
医師は治療の専門家ですので、後遺障害等級認定の手続きには詳しくありません。そのため、後遺障害診断書に適切な記載があるかどうかは、ご自身や専門家に依頼してしっかりとチェックしてもらうことが大切です。
通院期間・通院日数の不足
通院期間や通院日数が不足していると、「治療の必要性が乏しい」、「後遺症が残るような怪我ではない」として、後遺障害等級認定を受けられない可能性があります。
仕事や家事などで忙しい方だと、通院が面倒になってしまい痛みなどの症状があっても病院に行かずに我慢してしまうことがあります。
しかし、後遺障害等級認定の手続きでは、通院実績も評価の対象になっているので、適切な頻度で継続的に通院を続ける必要があります。
症状に一貫性がない
レントゲンやMRIなどによる他覚所見がなく、自覚症状だけであったとしても、後遺障害の等級認定を受けることができます。
しかし、そのためには症状に一貫性があることが必要です。
治療途中で別の部位の痛みを訴えたり、治ったはずの部位の痛みを再び訴えたりすると、症状の一貫性がないという理由で後遺障害等級認定を受けられない可能性があります。
痛みやしびれなどの自覚症状がある場合には、事故当初からしっかりと医師に伝えて、カルテなどに記載してもらうことが大切です。
症状固定が早い
怪我の内容や程度にもよりますが、症状固定までの期間が6か月以下だと後遺障害等級認定を受けられない可能性が高くなります。
後遺障害が残るような怪我だと、治療のためにある程度の通院期間が必要になると考えられているからです。
症状固定時期を判断するのはあくまでも医師なので、自分の都合で治療を終了してはいけません。
また、保険会社から治療費の打ち切りの打診を受けたとしても、医師が治療の必要性があると判断している場合には通院を継続するようにしましょう。
事故との因果関係が不明確
事故直後に通院せずに、事故から時間が経って痛みを訴えて通院することがあります。
このようなケースでは、事故による怪我なのかに疑問が生じ、事故との因果関係を否定されてしまうリスクが高くなります。
そのため、事故後はできる限り早めに病院を受診することが大切です。
▶後遺障害認定のデメリットとは?|診断書を書いてもらえない時の対処法も解説
後遺障害で認定されなかったときは慰謝料がもらえない?
後遺障害等級が認定されないと慰謝料を支払ってもらえないのでしょうか。
後遺障害慰謝料と逸失利益の支払いを受けられない
後遺障害が認定されなかった場合、「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」の支払いを受けることができません。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによる肉体的・精神的苦痛に対して支払われるお金です。
後遺傷害慰謝料は、認定された等級に応じて金額が定められており、より上位の等級になればなるほど慰謝料の金額は大きくなります。
しかし、非該当だと後遺障害慰謝料の支払いはありません。
逸失利益とは、後遺障害により労働能力が制限されたことで本来得られたはずの利益が得られなくなったことによる損害をいいます。
後遺障害が非該当になれば、労働能力の制限もないため逸失利益の支払いが認められることは困難になるでしょう。
後遺障害慰謝料と逸失利益は、交通事故の賠償金の中でも大きな割合を占めていますので、これらの支払いがないということは、賠償金の大幅な減額につながってしまいます。
非該当でも傷害慰謝料(入通院慰謝料)には影響はないことがある
交通事故の慰謝料には、後遺障害慰謝料以外にも「傷害慰謝料(入通院慰謝料)」というものがあります。
傷害慰謝料とは、事故による怪我で生じた肉体的・精神的苦痛に対して支払われるお金です。
傷害慰謝料は、通院期間や通院日数に応じて支払われますので、後遺障害の認定を受けられなかったとしても、慰謝料の金額には影響がないことがあります。
後遺障害で認定されないときの対処法
後遺障害が認定されなかったときは以下のような対処法を検討しましょう。
異議申立て
後遺障害等級認定の申請をした結果、「非該当」になってしまったり、認定された等級に納得いかない場合には、異議申立てをすることにより、再度後遺障害の有無や程度を審査してもらうことができます。
異議申立てには回数制限がないので、時効にならない限り何度でも申請することができます。ただし、当初の後遺障害等級認定の申請と同じ資料しか提出できないのであれば、等級認定結果が覆る可能性は低いです。
そのため、異議申立てをする際には、非該当になった理由を精査し、自己の主張を裏付ける新たな医学的な証拠の提出が必要になります。
紛争処理制度の利用
後遺障害の認定が受けられない場合には、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構による紛争処理制度を利用することができます。
紛争処理制度とは、公正中立な立場にある医師、弁護士、学識経験者などにより組織された紛争処理委員が保険金支払いや後遺障害等級認定の妥当性を審査する制度です。
紛争処理制度は、異議申立てとは異なり、1回しか利用することができず、新たな証拠を提出することができません。
そのため、紛争処理制度を利用する場合には、異議申立てなどで十分に争った後に利用すべきでしょう。
訴訟提起
異議申立ておよび紛争処理制度によっても後遺障害の等級認定が得られない場合は、最終的に裁判所に訴訟提起をすることになります。
裁判所は、一般的に損害保険料算出機構が認定した後遺障害の結果を踏まえて、後遺障害の有無や程度を判断しますが、損害保険料算出機構の判断に拘束されるわけではありません。
裁判所は、独自に後遺障害の有無および程度を判断することができますので、訴訟で適切な主張立証を行うことで、非該当であった後遺障害が認められる可能性もあります。
▶後遺障害14級の認定に必要な通院日数は?認定率についても解説
後遺障害が後に認定されたケースについて
以下では、当初は後遺障害が非該当とされたものの、異議申立てなどにより後遺障害が認められたケースを紹介します。
右鎖骨変形について非該当から12級5号が認定された事例
下記の記事では右鎖骨の変形で後遺障害等級非該当から12級5号に認定されたケースを紹介しています。
>>右鎖骨変形についての自賠責保険後遺障害の認定 (非該当→12級5号認定)
事案の概要
自賠責保険会社からは、右鎖骨部疼痛と右肩可動域制限の症状について、以下のような理由で後遺障害等級には該当しないものと判断されました。
- 右肩部画像上骨折部の骨癒合を得ており偽関節と認め難く、後遺障害診断書上、自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見に乏しく、後遺障害には該当しないものと判断した
- 可動域制限の原因となる骨折、脱臼や神経損傷などは認められず、後遺障害には該当しないものと判断した
異議申立ての結果
被害者は、上記の認定結果に納得できず、右鎖骨変形についての新たな医学的証拠を提出して、異議申立てをしたところ、後遺障害等級12級5号が認定されました。
頸椎捻挫について非該当から14級9号が認定された事例
下記の記事では交通事故による頸椎捻挫で後遺障害等級非該当から14級9号に認定されたケースを紹介しています。
>>交通事故による頸椎捻挫についての自賠責保険後遺障害の認定(非該当→14級9号認定)
事案の概要
自賠責保険会社からは、被害者の両手尺側のしびれ、左腋窩から左前腕のしびれ等の症状について、以下のような理由で後遺障害等級には該当しないものと判断されました。
- 画像上の所見が認められないことに加え、神経学的異常所見が認められない
- 治療状況等から将来のいても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い
異議申立ての結果
被害者は、上記の認定結果に納得ができず、新たな画像所見や症状の経過・継続性を裏付ける証拠を提出して、異議申立てをしたところ、後遺障害等級14級9号が認定されました。
後遺障害で認定されるためのポイント
適切な後遺障害等級認定を受けるためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
必要な検査を受ける
後遺障害等級認定の手続きは、基本的には書面審査になりますので、後遺障害診断書やレントゲン、CT、MRIなどの画像所見が非常に重要になります。
実際の症状に対し、医学的な裏付けがあれば後遺障害の認定を受けられる可能性が高くなりますので、早い段階でこれらの検査を実施してもらうようにしましょう。
事故から時間が経ってからでは、事故以外の原因で生じたと疑われてしまい、事故との因果関係を否定されるリスクが高くなりますので注意が必要です。
事前認定ではなく被害者請求により申請する
後遺障害等級認定の手続きには、「事前認定」と「被害者請求」という2種類の方法があります。
事前認定は、加害者側の保険会社に任せて行う方法であり、被害者請求は、被害者自身ですべての手続きを行わなければならない方法です。
不慣れな被害者にとっては、事前認定の方が手続き的な負担は少ないといえますが、適正な後遺障害等級認定を受けるためには、被害者請求の方法で行うのがおすすめです。
なぜなら、事前認定では、保険会社が後遺障害診断書の記載内容等を含めた情報をすべて入手したうえで後遺障害等級が認定されないための対応策を講じてくることがあるため、敵に塩を送ることになりかねません。
必要最低限の資料だけでは、満足いく結果を得ることはできないでしょう。
なお、被害者請求での手続き的負担は、後述するような専門家に依頼することにより解消することもできます。
非該当でも諦めずに異議申し立てを行う
後遺障害等級認定の手続きで非該当になってしまったとしても、すぐに示談をするのは避けるべきです。
非該当になった理由を精査した上で、必要な医学的証拠を揃えて異議申立てをすることで、認定結果が覆る可能性も十分にあります。
後遺障害等級の認定を受けられるかどうかによって、賠償額が大きく変わってきますので、諦めずに異議申立てをすることが大切です。
▶後遺障害14級の認定率は?|認定率を上げるためのポイントも紹介
YKR Medical Consultは後遺障害の異議申し立てに対応可能
YKR Medical Consultは、異議申立ての際に提出する交通事故意見書の作成を行っています。異議申立てでは、新たな医学的証拠を提出できなければ、結論が覆る可能性は低くなりますので、説得力のある意見書の有無が非常に重要になってきます。
YKR Medical Consultの交通事故意見書作成サービスを利用することで以下のようなメリットがありますので、後遺障害が認定されないことでお困りの方は、YKR Medical Consultまでお問い合わせください。
▶交通事故意見書作成サービスに関する料金やよくある質問はこちら
充実の医師
医師であっても、専門領域以外の分野については適切な意見書を作成することができません。
YKR Medical Consultでは、ご依頼内容に応じた適切な診療開始を選定しますので、適切な医師による意見書の作成が可能です。
作成前の事前調査も可能
異議申立てで利用する意見書は、異議申立ての趣旨に沿った内容でなければ意味がありません。
YKR Medical Consultでは、弁護士の先生方に意見書の争点を明確化していただくことが前提になりますが、意見書作成前の事前調査依頼も受け付けております。
複数医師での意見書の作成が可能
意見書の有効性を高めるには、複数の医師の意見が重要になります。
また、怪我の部位によっては複数の診療科にまたがることもあります。
YKR Medical Consultでは、複数医師による多角的な視点での意見書を作成しておりますので、安心してご依頼ください。
まとめ
症状固定後も何らかの症状が残っている場合には、後遺障害等級認定の申請をすることができます。
しかし、後遺障害等級認定の申請をしたとしても、後遺障害が認定されないケースも少なくありません。
そのような場合には、適切な医学的証拠を揃えて異議申立てをすることで、結果が覆る可能性もありますので、あきらめずに対応することが大切です。
YKR Medical Consultでは、異議申立ての際に提出する交通事故意見書の作成を行っておりますので、異議申立てをお考えの方は、YKR Medical Consultまでお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者
不破 英登
経歴
2009 | 愛知医科大学医学部医学科 津島市民病院 |
2011 | 名古屋第二赤十字病院 放射線科 |
2016 | 名古屋市立大学大学院医学研究科 放射線医学分野 助教 |
2018 | 豊田若竹病院 放射線科 YKR medical consult設立 |
2018 | 家来るドクターJAPAN株式会社 顧問医師 |
2021 | YKR medical consult 代表就任 |
【資格】 産業医・放射線科診断専門医 |