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2026/02/17

熱中症による後遺障害の労災認定条件と非該当になりやすい要因

公開日:

熱中症による後遺障害の労災認定条件と非該当になりやすい要因

※本稿は、労災保険(労働者災害補償保険)に関する一般的な整理です。個別事案の結論は、医学的資料と行政判断により変わります。

 

熱中症は重篤化すると多臓器不全や中枢神経への不可逆的なダメージを生じ、回復後も就労や日常生活に支障となる症状が残ることがあります。その一方で、熱中症による残存症状は画像所見に乏しかったり、症状が揺れ動きやすかったりするため、労災の障害給付における後遺障害等級の認定では治ゆの見立てと残存障害の客観化が壁になりやすい分野です。

 

弁護士が熱中症事案で申請戦略を組むには、争点になりやすい箇所と、非該当に直結しやすい落とし穴を制度の構造に沿って押さえ、急性期から資料の取り方を設計しておく必要があります。

 

 

熱中症による後遺障害の労災認定の前提

治ゆの意味と判断の枠組み

労災保険でいう治ゆとは、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を続けても医療効果が見込めなくなった状態を指します。完治を意味する言葉ではありません。治ゆの時期は最終的に所轄労働基準監督署長が認定し、通常は担当医師の臨床所見などを踏まえて判断されます。

 

治ゆという考え方自体は自賠責保険など他制度でも同様に整理されます。ただし、提出書式や評価の枠組みは制度ごとに異なるため、労災では労災の運用に沿って、意見書の様式や評価項目に合わせた資料の組み立てが必要になります。

 

障害給付と傷病年金の区別

熱中症後の状態が重い場合、後遺障害等級の話だけで終わらないことがあります。

 

原則としては治ゆ後に残存障害が評価され、業務災害なら障害補償給付、通勤災害なら障害給付として等級認定の審査に進みます。

 

これに対し、療養開始後1年6か月を経過した時点で傷病が治ゆしておらず、かつ障害の程度が傷病等級の第1級から第3級に該当する場合は、傷病年金の枠組みが問題になります。業務災害では傷病補償年金、通勤災害では傷病年金です。

 

透析に至ったから直ちに何級といった決め打ちは避け、まずその時点で治ゆしているのか、治ゆしていない重篤状態として年金の枠組みが問われるのかを整理します。そのうえで申請ルートと資料設計を決める方が安全です。

 

熱中症で認定対象になり得る障害の全体像

熱中症の残存障害は、

 

  1. 神経系統の機能障害(運動失調、構音障害、嚥下障害、麻痺や巧緻運動障害など)
  2. 高次脳機能障害(記憶、注意、遂行機能、社会的行動など)
  3. 胸腹部臓器の機能障害(腎機能障害など)
  4. 末梢神経の障害や機能障害(しびれ、感覚障害、運動制御低下など)

 

に大別して整理できます。

 

熱中症は、画像に写る局所損傷を必ずしも伴いません。

 

症状の訴えだけでなく、所見、検査、生活上の支障をどう積み上げるかが認定に直結します。

 

関連記事:労災の休業補償の計算方法とは|会社負担はどれくらい?

 

労災の枠組みに沿った各障害の評価ポイント

神経系統の障害(運動失調、構音、嚥下など)

重症熱中症(熱射病)で小脳や脳幹系などに不可逆的な影響が及ぶと、運動失調、構音障害、嚥下障害、歩行障害、四肢の協調運動障害が残ることがあります。

 

ここで押さえたいのは、MRI所見が明瞭であれば有利という単純な話ではなく、所見が乏しい場合でも評価できる形に落とし込むことです。受傷後の複数時点における神経学的所見、リハビリの記録、就労場面での具体的制限を、時系列で一貫して残します。

 

神経学的所見であれば、継ぎ足歩行、指鼻試験、踵膝試験、眼振、協調運動、嚥下評価などが典型です。リハビリ記録では、歩行補助具の要否、転倒リスク、日常動作の介助量が重要になります。就労では、工具操作、段差や階段、運転、長時間の立位や歩行といった場面で、何がどこまで制限されるのかを具体化します。

 

高次脳機能障害は4能力評価と専用意見書様式が軸になる

熱中症で意識障害が遷延した例や、重篤な全身状態(ショック、低酸素、DICなど)を伴った例では、高次脳機能障害が残ることがあります。労災の枠組みとして重要なのは、評価の中心が4つの能力に置かれている点です。

 

労災では、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力と持久力、社会行動能力の4能力を軸に、喪失の程度(支援の要否と程度)を評価し、その結果に応じて第3級、第5級、第7級、第9級、第12級、第14級を認定する運用が示されています。さらに重篤で、食事、入浴、用便、更衣などに介護が必要な場合は、介護の程度により第1級や第2級が認定され得ます。

 

また、脳損傷などで高次脳機能障害が残った場合には、専用の意見書様式の提出を受け、その内容を踏まえて障害等級を認定する運用が示されています。

 

熱中症では局所脳損傷が明瞭でないことも多く、画像変化が軽微または非特異的にとどまることがあります。だからこそ、審査側が読み取れる形に整える必要があります。神経心理学的検査(WAIS、WMSなど)の結果、リハビリや職場復帰支援、産業医面談といった行動観察、家族や同僚による前後比較は、いずれも材料になります。ただし主語はあくまで4能力で、各資料はその裏づけとして配置します。

 

たとえば、会議内容を直後に保持できず指示が抜けるのであれば、意思疎通能力や問題解決能力の低下として整理します。8時間勤務の後半でミスが続き、休憩や注意喚起がないと維持できないのであれば、持続力や持久力の問題としてまとめます。場にそぐわない発言や衝動的行動、対人トラブルが目立つなら、社会行動能力の低下として位置づけます。

 

検査スコアが低いという事実だけでは足りません。生活と就労の場面で実際に何が起きているかまでを見て、はじめて評価が通ります。

 

胸腹部臓器の機能障害では腎機能はGFR区分が基礎になる

重症熱中症に伴う横紋筋融解症から急性腎障害(AKI)を来し、その後に腎機能障害が残るケースがあります。胸腹部臓器の障害は、障害等級表上、第1級、第2級、第3級、第5級、第7級、第9級、第11級、第13級といった枠組みで整理されています。

 

腎機能障害については、腎臓を一側失った場合と失っていない場合を分けたうえで、糸球体濾過値(GFR)で等級が判定される整理が示されています。GFRは小数点以下切り上げの数値で扱うとされています。

 

GFRによる等級の目安は、31から50では腎臓を失った場合が7級、失っていない場合が9級。51から70では、失った場合が9級、失っていない場合が11級。71から90では、失った場合が11級、失っていない場合が13級。91以上では、失った場合が13級で、失っていない場合は等級なしと整理されています。

 

実務では、医師の算定方法や検査条件の確認が欠かせません。

 

腎機能障害は数値で語れる反面、受傷前からの慢性腎臓病、脱水の習慣、薬剤などがあると争点になりやすい領域です。立証では、受傷前健診(Cr、eGFR、尿所見)、急性期データ(CPK、Cr、尿量、尿所見、DIC所見など)、退院後の推移(GFRの推移、治療内容、生活制限)を時系列で整え、熱中症を境にした変化と医学的整合性を示す必要があります。

 

末梢神経の障害や機能障害は関節可動域より神経系で評価されやすい

熱中症では外傷性の関節拘縮は典型ではありませんが、脱水や電解質異常、循環不全、長期臥床などの影響で、末梢神経障害や運動制御の低下が残ることがあります。手指の巧緻性が落ちて工具操作が難しい、歩行に補助具が必要で転倒リスクが高い、しびれや感覚障害で作業の安全性を確保できない、といった形で問題化します。

 

ここは関節可動域制限の枠に無理に当てはめるより、神経系統の機能障害として所見、検査、生活上の支障を揃える方が一貫します。

 

関連記事:障害によるしびれが残った場合の法的責任と対応について

 

熱中症の後遺障害で判断が分かれやすい点

治ゆ時期の設定で回復と適応が混ざりやすい

熱中症後の脳機能や全身状態は急性期が最重篤で、数か月から1年程度の期間で緩徐に回復したり変動したりすることがあります。復職後になって初めてミスが目立ち始める経過もあり、症状が長期に残るのかの見極めが難しくなります。

 

先に申し上げた通り、治ゆは完治ではなく医療効果が見込めない安定状態です。高次脳機能障害ではリハビリや代償手段の獲得によって見かけ上の遂行能力が上がることがあります。これを治ったと読み違えると、その後の手続設計が歪んでしまうことに注意が必要です。

 

支援があって成立しているのか、支援なしで自立しているのかを4能力の枠に沿って書面化しておくことが重要となります。

 

検査データと生活や就労上の支障が噛み合っているか

画像や心理検査の数値があっても日常生活や就労制限の説明が弱ければ説得力が落ちます。逆に、生活上のエピソードが豊富でも、医学的評価(所見や検査)が薄いと主観に寄って見られます。両者が整合しているかどうかが認定の成否を分けます。

 

熱中症の後遺障害が非該当になりやすい要因

評価が揃わないまま治ゆ相当として手続が進む

急性期から回復期は、生命兆候や身体機能の改善が優先され、認知や行動面の評価が後回しになりがちです。その結果、高次脳機能の評価として4能力に対応する情報が揃わない、就労や生活での支障が書面化されない、治ゆ時点の客観的データが薄い、といった状態で手続が進み、非該当につながります。

 

弁護士が早期に関与できるなら、主治医、リハビリ職種、産業医などと連携し、どの能力がどの程度、どの場面で落ちているのかが分かる資料を優先して整備するのが有効です。

 

既往症や加齢変化との切り分けが弱く因果関係が薄く見える

脳梗塞の既往、アルコール関連変化、加齢性の認知低下、既存の慢性腎臓病などがあると、熱中症が原因で能力が落ちたことの説明が難しくなります。鍵になるのは前後比較です。

 

受傷前の健診、画像、就労状況(勤務実績、配置、評価など)を押さえ、受傷後は同条件での比較として、同じ作業ができない、監督や支援が必要になるといった変化を示します。家族や同僚による前後比較も具体的エピソードとして揃えることで、熱中症を境にした変化を客観化できます。

 

医学的評価や書面が労災の評価軸に合っていない

カルテに、めまい、倦怠感といった不定愁訴が並ぶだけで、神経学的所見、高次脳機能の4能力に対応する情報、腎機能のGFR評価などが整理されていないと審査側は判断材料を得られません。高次脳機能障害では、専用意見書様式などの枠組みに沿った整理が示されている以上、書式と中身の両方を労災の評価基準に合わせる必要があります。

 

関連記事:頭部外傷と認知機能障害の概要、法的評価の重要性

 

医師の意見書に関する相談ならYKRメディカルコンサルトまで

熱中症の後遺障害の労災では、急性期からの経過、治ゆ時期の見立て、残存障害の客観化(所見、検査、生活上の支障の整合)が鍵になります。とりわけ高次脳機能障害は、4能力の枠組みに沿って資料化できているかどうかで差が出ます。

 

YKRメディカルコンサルトでは、医師がカルテ、検査データ、画像などを医学的に精査し、労災の障害等級認定で争点になりやすいポイント(治ゆ、因果関係、機能評価)を踏まえた意見書作成を支援しています。労災認定は行政判断であり、結果を保証するものではありません。法律判断や手続代理は弁護士の職務領域です。

 

 

まとめ

熱中症の後遺障害は、画像所見に乏しく、症状が変動しやすいという事情から、非該当になりやすい構造的なリスクを抱えています。治ゆは完治ではなく、医療効果が見込めない安定状態で、時期の認定は監督署長が行います。

 

重篤例では治ゆ後の等級認定だけでなく、治ゆしていない状態で傷病年金の枠組みが問題になるかどうかも整理が必要です。高次脳機能障害は4能力と専用意見書様式に沿って、検査結果と生活や就労上の支障を対応づけて示します。腎機能障害はGFR区分に沿った数値評価と、熱中症を境にした時系列整理が争点になります。

 

受傷直後から後に争点になりやすい箇所を見越して資料を取り、治ゆ時点の客観的データを固めていくことが、適正な認定につながります。

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