障害によるしびれが残った場合の法的責任と対応について
障害によるしびれが残った場合、加害者や事業者にはどのような法的責任があるのでしょうか。また、加害者や事業者にはどのような対応が求められるのでしょうか。
本記事では、障害によるしびれが残った場合の法的責任と対応について解説します。
障害によるしびれを客観的に評価する検査方法についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
しびれについて
しびれとは、私たちの日常生活でしばしば経験する不快な感覚のひとつです。
多くの人が「ピリピリ」「チクチク」「ジンジン」といった表現を用いて説明するこの感覚は、実は体の重要な警告サインであることが少なくありません。
これらは主に神経系の異常や障害によって引き起こされる感覚の乱れとなります。
私たちの体は末梢神経を通じて様々な感覚を脳に伝えていますが、この神経の働きに何らかの支障が生じると、しびれとして感じられます。
しびれの原因は、単に長時間同じ姿勢を続けたことによる一時的なものから、糖尿病や脳梗塞といった疾患に関連するものまで多岐にわたります。
交通事故によるむち打ち症では、頚部周辺の脊髄から分岐した神経の損傷や、外傷による腫れが神経根を圧迫することで手のしびれや握力の低下が起こることがあります。
しびれの症状は原因や部位によって大きく異なります。
軽度のものであれば数分から数時間で自然に回復することもありますが、慢性的な痛みや不快感につながるケースもあります。
特に手や足のしびれは、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。治療期間も原因によって様々です。
軽度のしびれであれば1〜3ヶ月程度で改善することもありますが、重度の神経損傷の場合は6ヶ月以上の長期にわたる治療が必要になり、場合によっては永久的に異常感覚として残ることもあります。
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交通事故による障害としびれ
交通事故による障害としびれには、どのような関係があるのでしょうか。加害者の法的責任や対応もあわせて解説します。
交通事故と障害性しびれの関係
交通事故は被害者に様々な身体的障害をもたらす可能性があり、その中でも「しびれ」は頻繁に見られる後遺症の一つです。
しびれの発生メカニズムは複雑で、必ずしも骨折や脱臼を伴わなくても生じ得ることに注意が必要です。
交通事故によるしびれの主な原因として、以下が挙げられます。
- 神経の伸延損傷:事故の衝撃で神経が引き伸ばされることによる損傷
- 神経の圧迫(絞扼):一過性または持続性の神経圧迫によるもの
- 末梢神経損傷:事故の直接的な衝撃による神経の損傷
- 脊髄損傷:重度の事故による脊髄への直接的な損傷
- 神経根損傷:頚椎や腰椎の損傷に伴う神経根への影響
さらに、以下の要因も考慮する必要があります。
- 既存の頚椎症などの変性疾患:これらの背景疾患がある場合、事故による軽微な衝撃でも神経障害が生じやすくなります。
- 特定疾患による神経の易損傷状態:糖尿病や自己免疫疾患など、神経が損傷を受けやすい状態にある場合、事故の影響がより顕著になる可能性があります。
しびれの症状は、その部位や程度によって大きく異なり、慢性的な痛みや不快感につながることがあります。
これらの症状は被害者の日常生活に重大な影響を及ぼす可能性があり、完全な回復が困難なケースも少なくありません。
したがって、交通事故後のしびれ症状の評価には、単に骨折や脱臼の有無だけでなく、神経系全体への影響を総合的に考慮することが重要です。
実際の治療期間は個々の状況によって大きく異なります。
医師の判断に基づくことが大切ですが、症状が改善するまで、または症状が固定するまで治療を継続することが重要です。
治療中に保険会社から治療費の打ち切りを通告されても、医師が治療継続の必要性を認めている場合は治療を続けるべきだと考えています。
適切な治療を受けて十分な回復を目指すことが、後の補償や慰謝料の請求にも影響する可能性があります。
加害者の法的責任と対応
交通事故における加害者の法的責任には、民事上・刑事上・行政上の3つの責任があります。
民事上の責任とは、被害者に対して損害賠償を支払うことです。
損害賠償には被害者の治療費、損害賠償、慰謝料、場合によっては逸失利益の補償が含まれます。具体的な賠償額は被害者との話し合いで決まります。
刑事上の責任とは法律違反による刑事罰を受けることです。刑事罰には懲役や禁錮、罰金などがあり、裁判によって刑事罰の程度が決まります。
行政上の責任とは、加害者に与えられている運転免許に対する責任になります。
警察と公安委員会により運転免許の取消、もしくは免許停止となることもあります。
加害者の対応としては事故直後に速やかに保険会社に連絡を取り、適切な手続きを進めることが重要です。
また、被害者とのコミュニケーションを保ち、誠実に対応することで法的な問題の解決に向けて協力的な関係を築くことが望ましいと言えます。
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労災による後遺障害としびれ
労災による後遺障害としびれには、どのような関係があるのでしょうか。後遺障害の認定基準や労災保険・補償制度について解説します。
労災としての後遺障害の認定基準
労災による後遺障害の認定は、事故後に残る身体的または精神的な障害が労働者の労働能力にどの程度影響を与えるかに基づいて行われます。
しびれなどの神経系の障害も労働者の作業効率や日常生活に大きく影響する可能性があるため、重要な評価対象となります。
後遺障害の認定において、医師による診断書は重要な役割を果たします。その場合、診断書には障害の程度が詳細に記載される必要があります。
労災保険では、後遺障害は1級から14級までの14段階に分類されます。これらの等級に基づいて、障害補償給付の内容や金額が決定されます。
しびれの場合、主に神経の損傷や圧迫による影響が評価の対象となりますが、重要なのは症状を客観的に証明することです。
画像診断(単純X線写真、CT、MRIなど)や神経学的検査(筋電図検査、腱反射テストなど)が大きな役割を果たします。
また、後遺障害の認定を受けるためには、労働基準監督署への申請や面談など、一定の手続きが必要です。
最後に、後遺障害の認定には時効があり、症状固定から5年が経過すると請求権が消滅するため注意が必要です。
労災保険と補償制度
労災保険は、労働者の業務上の事由または通勤による傷病などに対して、必要な保険給付を行う制度です。
この制度は、原則として一人でも労働者を使用する事業に適用され、アルバイトやパートタイマーなどの雇用形態は関係ありません。
給付の種類と内容は下記の通りになります。
- 医療費の支給(療養補償給付):業務上の傷病に対する医療費は全額支給されます。
- 休業補償:労働者が業務上の傷病により休業した場合、休業4日目から給付が開始されます。給付額は、休業1日につき給付基礎日額の80%相当額です。
- 障害給付:後遺障害の程度に応じて、障害等級(1級から14級)に基づいた給付が行われます。
- 遺族給付:業務上の事由で労働者が死亡した場合、遺族に対して遺族補償年金や葬祭料が支給されます。
- 通勤災害:通勤中の事故も労災保険の対象となります。ただし、合理的な通勤経路や手段であることが条件です。
労災保険の対象となる疾病は「職業病リスト」で定められており、最近では尿路系腫瘍などが新たに追加されています。
事業主の責任として、労災保険の適用を適切に管理し、事故発生時には迅速に対応することが重要です。
また、労働者の安全衛生の確保や被災労働者の社会復帰の促進なども事業主の役割となります。
障害によるしびれを客観的に評価する検査方法
障害によるしびれを客観的に評価する検査方法は、以下の主に4つです。
- 針筋電図検査
- 神経伝導検査
- 誘発電位検査
- 電流知覚閾値検査
それぞれの検査方法について、以下で解説します。
針筋電図検査
針筋電図検査は、特に筋線維の電気活動を記録するために行われる検査です。
この検査では、細い針電極を特定の筋肉に挿入し、筋線維の静止時および収縮時の電気活動を測定します。
神経障害が筋線維への信号伝達に影響を与えている場合、以下のような異常が観察されることがあります。
- 安静時の自発電位の増加(線維自発電位、陽性鋭波など)
- 運動単位電位の振幅や持続時間の変化
- 運動単位の再生編成(大型化、多数化など)
- 干渉波形の減少
この検査は、神経が筋線維をどのように支配しているか、また神経や筋肉自体に障害があるかどうかを評価するのに役立ちます。
筋原性疾患と神経原性疾患の鑑別に有用です。
また、漸減現象(反復刺激時の複合筋活動電位の振幅減少)の有無を観察することで、神経筋接合部疾患の診断が可能です。
神経伝導検査
神経伝導検査は、神経が電気信号をどれだけ効率的に伝えるかを測定する検査です。
この検査では、小さな電極を皮膚に貼り付け、一定の電気刺激を神経に与えて、刺激に対する神経の反応速度と強度を記録します。
伝導速度が遅かったり、反応が弱かったりする場合、神経障害や神経の圧迫が存在することが示されます。
この検査は、しびれや痛みの原因となる神経の問題を特定するのに有効です。検査には下記の様な種類があります。
- 運動神経伝導検査:
- 刺激部位:神経の走行に沿った複数の点
- 記録部位:支配筋
- 測定項目:潜時、振幅、伝導速度
- 感覚神経伝導検査:
- 刺激部位:末梢神経の走行に沿った複数の点
- 記録部位:近位部
- 測定項目:潜時、振幅、伝導速度
- 臨床的意義
- 脱髄性ニューロパチー:伝導速度の低下
- 軸索性ニューロパチー:振幅の低下
- 伝導ブロック:近位部刺激時の振幅低下
誘発電位検査
誘発電位検査は、特定の刺激(視覚、聴覚、体性感覚など)に対する脳や脊髄の電気的反応を記録する検査です。主な種類には以下があります。
- 視覚誘発電位(VEP)検査
- 聴性脳幹反応(ABR)検査
- 体性感覚誘発電位(SEP)検査
この検査は、中枢神経系の伝導路の機能評価に用いられます。
脱髄性疾患では潜時の延長が見られ、脳腫瘍や脳幹障害では波形の変形や消失が起こります。
検査時には、被検者は安静にしており刺激に対する脳波の微小な変化を増幅して記録します。検査は無痛で非侵襲的です。
誘発電位検査は中枢神経系疾患の診断だけでなく、経過観察や治療効果の判定にも有用です。
電流知覚閾値検査
電流知覚閾値検査は、患者が最小限の電気刺激を感じ取れる閾値を測定する検査です。
この検査では、異なる周波数の微弱な電流を用いて皮膚の特定の部位に適用し、患者が感覚を認識する最低限の電流強度を測定します。
この検査により、
- 感覚神経の機能障害の評価:閾値の上昇は感覚神経の機能低下を示す
- しびれや痛みの原因特定:神経障害の早期発見に有用
- 糖尿病性神経障害:特に小径線維の障害を早期に検出
- 慢性疼痛:痛覚過敏の評価
といった内容を評価し、しびれや痛みの原因となる神経の問題を特定するのに適しています。
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加害者側に後遺障害が残った場合は?
被害者側に重大な過失があった場合、自賠責保険の損害賠償金は減額されます。
- 被害者の過失割合が7割未満の場合:減額はありません。
- 被害者の過失割合が7割以上8割未満の場合:2割減額
- 被害者の過失割合が8割以上9割未満の場合:3割減額
- 被害者の過失割合が9割以上10割未満の場合:死亡・後遺障害は5割減額、傷害は3割減額
したがって、被害者側の過失割合が大きいほど、自賠責保険からの損害賠償金は減額されます。
また、被害者側の過失割合が大きい場合、保険会社は請求手続きを代行しないことがあります。
その場合、被害者自身で後遺障害等級の認定手続きなどを行う必要があります。
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【まとめ】障害でしびれが残った場合の対応
交通事故による障害でしびれが残った場合、加害者は民事上・刑事上・行政上の3つの法的責任を負います。
具体的には、それぞれ被害者に対する損害賠償金の支払い、法律違反による刑事罰、加害者に与えられている運転免許に対する責任を取る必要があります。
一方、労災による障害でしびれが残った場合、補償は労災保険により行われます。
事業者の対応は、労災保険の適用を管理することと、労災事故後のフォローアップを迅速かつ的確に行うことが大切です。
職場復帰支援や再発防止策の実施も含めた対応が必要になることを理解しておきましょう。