指が曲がらない症状の後遺障害認定|認定条件と評価に必要な医学的資料
交通事故や労災事故のあと、指が曲がりにくい、あるいは伸びにくい状態が残ることは珍しくありません。治療やリハビリを続けても可動域の制限が残り、日常生活や仕事に支障を抱えたまま症状固定、労災でいう治ゆに至る場面では後遺障害としてどう評価されるかが問題になります。
ただ、指が曲がらないという訴えには主観が入りやすく、後遺障害認定は基準に対応した状態かどうか、そしてそれを裏付ける医学的資料がそろっているかで判断されます。後遺障害診断書に症状が書かれていても、認定実務が求める情報として測定方法や数値、画像所見、経過の整合性などが不足していると非該当になったり、想定より低い等級になったりすることは実務上よくあります。
以下は主として交通事故における自賠責の後遺障害等級、自賠法施行令別表を念頭に整理します。労災は手続の主体が異なりますが、等級判断で重視される医学的資料として可動域、画像、検査、経過の一貫性などは共通する部分が多く、資料整備の考え方としては参照できます。
目次
指が曲がらない症状の原因と、後遺障害で問われるポイント
指が曲がらない原因は、臨床的には骨の損傷、軟部組織、関節、神経の領域に大きく分けて考えられます。
骨の損傷では指節骨骨折として末節骨、中節骨、基節骨の骨折や、中手骨骨折が含まれます。
軟部組織では屈筋腱や伸筋腱の断裂、縫合後の瘢痕や癒着、腱鞘炎、拘縮が問題になります。
関節では関節内骨折後の関節面不整、拘縮、強直が原因になり得ます。
神経では正中神経、尺骨神経、橈骨神経などの末梢神経障害や腕神経叢の障害、まれに中枢由来の麻痺も視野に入ります。
指節骨骨折は関節面に及ぶと、関節面不整や痛み、拘縮が残りやすく、可動域制限の原因になり得ます。骨幹部骨折でも周囲組織の瘢痕形成や腱の滑走障害によっては隣接関節の可動域に影響が出ることがあります。
中手骨骨折は指そのものの障害として切り分けたくなるところですが、骨折部周囲の瘢痕化により伸筋腱の滑走が障害され、結果として指の屈伸が制限されることがあります。単指だけでなく隣接指まで症状が及ぶこともあるため、どの指のどの関節で、どれだけ可動域が落ちているかを丁寧に拾う必要があります。
後遺障害としては、まず機能障害として可動域制限を評価できるかが中心になります。
可動域が基準に届かない場合でも痛みやしびれが残るなら神経症状としての評価が争点になります。
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機能障害としての認定条件
手指の用を廃したものの考え方
自賠法施行令別表の備考では、手指の用を廃したものについて、末節骨の一定程度の欠損、または関節に著しい運動障害を残す状態などが示されています。
この著しい運動障害は、認定実務ではさらに具体化して運用されています。代表的には、MCP関節は(MP関節とも呼ばれます)、そのMCP関節またはPIP関節、母指ではIP関節の可動域が健側の二分の一以下であること、母指の橈側外転または掌側外転が健側の二分の一以下であること、末節骨長の二分の一以上の欠損や末節の指腹部、側部の感覚脱失などが挙げられます。
ここでいう曲がらない、屈曲や伸展ができないという訴えは、主として可動域制限としての運動障害に当たるかどうかが軸になります。
等級の決まり方 どの指が、何本か
用を廃した指の本数や組合せで等級が分かれます。機能障害としての枠組みはおおむね次のとおりです。
4級6号は、両手の手指の全部の用を廃したものです。
7級7号は、1手の5の手指、または親指を含み4の手指の用を廃したものです。
8級4号は、1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの、または親指以外の4の手指の用を廃したものです。
9級13号は、1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの、または親指以外の3の手指の用を廃したものです。
10級7号は、1手の親指、または親指以外の2の手指の用を廃したものです。
12級10号は、1手の人差し指、中指、薬指の用を廃したものです。
13級6号は、1手の小指の用を廃したものです。
これとは別に、14級7号は母指以外について、遠位指節間関節、DIP関節を屈伸できない状態が定められています。強直、あるいは屈伸筋損傷などの原因が明らかで、自動で屈伸できない、またはそれに近い状態が該当します。
可動域測定の位置づけと、診断書チェックの要点
可動域は後遺障害認定の核になるデータです。測定が曖昧だと、症状の重さが評価に反映されません。
関節可動域測定は日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会の測定法に沿って行われるのが通常です。他動運動での測定を原則とし、角度計、ゴニオメーターで通常は五度刻みで測定します。指や趾では角度計を当てやすいことから、背側に当てることが原則とされています。
実務で後遺障害診断書を見たときに確認したいのは、どの関節を測っているかが明確かどうか、MCPやPIP、DIP、母指IP、母指外転などの区別がつくか、健側と比較できる形で数値が記載されているか、両側受傷などで健側比較が難しいなら参考可動域の扱いも含めて説明がついているか、他動値か自動値かが明記されているか、自動値で評価するならその旨が読み取れるか、といった点です。
疼痛や防御反応で測定値は揺れ得るため、痛みの影響や測定時の状況が資料から追えるかも重要になります。自動値と他動値に差が出る、いわゆるactive–passive gapがある場合は、その意味付けとして腱癒着、筋力低下、疼痛回避などが資料上整理できているかが問われます。
医師は診療の専門家でも、後遺障害等級の要件に沿った書き方まで常に熟知しているとは限りません。弁護士側で診断書の記載が足りているかを点検し、必要があれば追記や別資料として意見書などで補強するのが現実的です。
指が曲がらない後遺障害の評価に用いられる医学的資料
後遺障害は症状があるだけでは足りず、それを支える客観的資料が必要です。とくに重要度が高いものを整理します。
後遺障害診断書は最重要資料です。
症状固定時点の残存所見として、可動域が健側値と患側値で示され、測定した関節と測定方法が分かること、自覚症状として痛み、しびれ、動かしにくさの内容が記載されていること、他覚所見として腫脹、変形、圧痛、拘縮、筋力低下、感覚障害などが拾われていること、そして経過の一貫性として、いつからどう改善し、どこで頭打ちになったのかが読み取れることが求められます。
画像資料としてはX線、CT、MRIなどが中心になります。
可動域制限の原因が器質的変化にあること、たとえば骨変形、関節面不整、拘縮、腱断裂などを示せると、認定の蓋然性は上がります。
X線では骨折の癒合状態、変形、関節裂隙、骨棘などを確認できます。
CTは関節面不整や骨片、関節内骨折の評価に有用です。
MRIは腱や靱帯、軟部組織の評価に使えますが、癒着が常に明瞭に写るとは限らず、所見が弱く見えることもあります。
事故直後の画像と症状固定時の画像を並べて説明できると、因果関係や残存所見の整理に役立つ場面があります。
診断書と画像だけでは、審査側が可動域制限と受傷との因果関係を否定してくることがあります。
そうした局面では、専門医の意見書が第三者性と論理補強として力を持ちます。
拘縮、腱滑走障害、関節面不整、神経麻痺などの病態を医学的に筋道立てて説明し、なぜ改善し切らないのか、なぜその関節やその指に症状が残るのかを、画像、診療録、リハビリ経過と整合させて示すことが狙いになります。異議申立てでは、通知書の否定理由に対応する新資料として提出し、争点を潰す役割を担います。
腱癒着や滑走障害が疑われる場合は、画像だけで決め切れないこともあります。そのときは手術記録、リハビリ記録、自動値と他動値の差の推移など、周辺資料の価値が相対的に上がります。
可動域が基準に達しない場合 神経症状としての評価
可動域が健側の二分の一以下に達しない場合、用廃としての機能障害は争いにくくなります。それでも痛み、しびれ、違和感、運動時痛が残っていれば、12級13号の局部に頑固な神経症状、または14級9号の局部に神経症状として評価される余地があります。ここでは他覚的裏付けの強弱が重要です。
実務上は、12級13号は画像所見や神経学的所見など、神経症状を裏付ける他覚所見が明確なケースで検討されやすく、14級9号は他覚所見が乏しくても受傷態様や治療経過から症状残存が医学的に説明できるケースとして整理されることが多い、という感覚になります。関節内骨折後の関節面不整が痛みの根拠として扱われることはありますが、それだけに限定されるわけではありません。
末梢神経麻痺が疑われる場合には、徒手筋力検査と感覚検査に加えて、神経伝導検査として運動と感覚を評価し、CMAPやSNAPなどの指標を見る検査や、針筋電図といった電気生理学的検査が客観的裏付けとして有用です。
実務上の注意点
症状固定までの治療とリハビリ経過は、手指の拘縮や腱滑走障害が論点になる事案では資料としても重要になります。治療期間が短いと改善余地を理由に評価が伸びないことがあるため、固定時期は医学的な合理性と審査実務の双方を意識して検討する必要があります。
通院間隔に長い空白があると、症状の一貫性や治療の必要性が疑われやすくなります。やむを得ない事情がある場合は、診療録や紹介状などで説明できる形にしておくのが無難です。
交通事故の場合、自賠責の等級申請には事前認定と被害者請求があります。被害者請求は提出資料を戦略的に整えやすい点が実務上の利点です。一方で、労災は手続の窓口や審査体系が異なる別制度なので、ここを混同しないよう整理しておく必要があります。
症状は痛い指だけでなく、隣接指にも可動域制限として出ていることがあります。複数指の関与が疑われるなら、各指の各関節で測定し、申請対象を漏れなく拾うことが重要です。
診断書の形式的な不足は致命傷になり得ます。数値の欠落、測定方法が不明、健側比較が不明、画像所見の記載がないといった不備は、内容以前に評価できない方向へ働きます。提出前のレビューで防げる類型なので、必ず点検しておきたいところです。
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手指の後遺障害認定では、可動域制限の原因を医学的に説明できるか、画像所見と経過が整合しているかが争点になりやすく、意見書や画像の再評価が結果に影響する局面があります。医学的判断や資料整備で行き詰まるときは専門医の関与も含めて検討すると整理が進みます。
まとめ
指が曲がらない後遺障害の立証は、訴えの強さではなく、基準に照らした可動域の到達度と、それを支える資料の精度で決まります。
まずは各指・各関節の可動域を、健側比較と測定条件が分かる形で揃え、画像所見と治療・リハビリ経過が矛盾なくつながっているかを確認してください。用廃の基準に届かない場合でも、痛みやしびれが残るなら神経症状としての評価に切り替え、神経学的所見や電気生理学的検査、手術記録やリハ記録などで客観性を補強します。
提出前に診断書の数値欠落や測定方法不明といった形式的な穴を潰し、争点になりやすい因果関係と症状固定の合理性を説明できる状態にしておくことが非該当や低位等級を避けるための現実的な近道です。








