脊髄損傷とは
目次
脊髄損傷とは
脊椎に強い外力が加わり、脊柱を損傷するとともに脊柱管内に存在する脊髄にも損傷が及ぶものです。
椎間板や椎体の変性ならびに腫瘍による脊髄の強い圧迫によっても同様の症状が現れることがあります。
脊髄損傷は不可逆な損傷であり、一度罹患すると現在の医療においては回復が困難な病態です。
受傷機序および診療について
脊椎に強い外力が加わり椎体の骨折や脱臼等により脊髄損傷が引き起こされます。
骨折のパターンによっては脊髄損傷が起きやすいものがありますが、それは画像検査後にわかることのため、脊椎に強い外力が加わったと考えられる患者に対しては脊髄損傷を念頭に置いて迅速かつ慎重に診療が行われます。
例えば、外傷を契機に椎間板に損傷が加わり、膨隆した椎間板によって脊髄にも損傷が起こることがあります(図1)。
椎体の骨折に伴って脊髄損傷を引き起こすこともあります(図2)。
外傷のほかにも、脊椎の変形に伴って脊髄に異常をきたすケース(図3)や、変性を背景に外傷によって脊髄損傷を呈する症例も存在します。
症状について
損傷した脊髄が支配する神経によって症状が異なります。
非常におおまかに分類すると頸髄損傷では上下肢の運動麻痺、しびれなどの感覚障害が、胸髄より下位の損傷では下肢の運動麻痺、感覚障害が起きます。
運動麻痺はその程度により完全麻痺や不全麻痺に分けられます。
また自律神経の障害が起きることがあり、重症では神経原性の心停止に至ることあります。
損傷がひどい場合、膀胱直腸障害という排泄機能の障害が起こることがあります。
いずれも生活の質に深く関わるものです。
脊髄損傷の診断について
外傷ではまず骨折の評価を行うことが殆どです。
スクリーニング的に単純X線写真が撮影され、高エネルギー外傷では診療のガイドラインに則って全身のCTが第一に撮影されます。
単純X線写真もCTも脊髄損傷の評価は不可能であるため脊髄損傷を疑う神経学的な症状があれば引き続きMRIが撮像されます。
神経学的評価
徒手筋力テスト、知覚障害の評価、巧緻運動機能障害の評価のほか、検者間で評価の差が起きにくい反射も神経学的評価として重要です。
CT
CTは骨傷が明らかとなった折に撮像されることが多いです。
外傷性脊髄損傷では後述のように次いでに撮られることも多いですが、変性をベースとした損傷ではMRIと比較するとあまり重宝されません。
脊エネルギー外傷では脊髄以外の切迫する損傷の評価のために全身のCTが第一に撮影されます。
同時に全身の骨も撮影されるため簡便と言えます。
しかし視野が広すぎることや画質低下に関与する要因であるアーチファクトの影響で、全身のCTでは骨折の評価が難しいことがあります。
骨折の種類は数多く存在するため、ここでの解説は割愛いたします。
単純X線写真
スクリーニング的に撮影される画像です脊椎全体を平面としてとらえることができるため脊髄損傷の検査として、特に変性背景による脊髄損傷を強く疑う場合ではCTよりも重宝される検査です。
JATECにて重症例では省略できるとの記載があるため、現場の医師の中でも省略されるケースが多く見受けられますが、現場の整形外科医師診察の上では必須の検査です。
CTではとらえにくい頸椎全体のアライメントや、全体が1枚で確認できることによる、正常とのわずかな「違和感」を見つけることができます。
また動作をからめた撮影が簡便であることなどが利点です(伸展位/屈曲位など)。
MRI
脊髄そのものを評価できる唯一の検査です。
この検査が行われるのは、神経学的な異常があるときはもちろんのこと、他にも不安定骨折が疑われるときや椎間板の評価を要するときに撮像されます。
MRIは脊髄だけでなく周囲の軟部組織の評価にも優れています。
骨の評価に関しても優れている点があります。
MRIは骨髄浮腫を評価することが可能であるため単純X線写真やCTで評価困難な微小な骨折の検出が可能です。
脊髄損傷を疑えば第一選択の検査です。
一部に実施禁忌事項はありますが、被爆のリスクもないため、多くの場合は実施に際し安全性の高い検査です。
脊髄損傷のMRI画像所見は損傷部に一致してT2強調画像と呼ばれるシークエンスで高信号を示します。
しかしMRIの機種や患者要因により画像の質に差が生じやすく、診断として適切な画像であるかどうかを見極めることも大切です。
特に検査中にじっとしていられない方のMRI画像は画質不良であることが多く、しばしば画像評価に苦慮します。
また、感度の高い検査であるため、受傷早期でなくとも信号変化をきたすことがあり、特に浮腫性変化においては、早期所見なのか寛解直前なのかといった判断に苦慮する場合もあります。
また受傷や損傷があったからと言って必ずしも信号変化するとはいえず、特に脊髄損傷の急性期においては信号変化を認めない場合があります。
単純X線写真やCTと異なり、全体像をとらえることは苦手で、技術的な面から撮像範囲が狭く、また撮像後に条件変更や撮像範囲拡大などができないため、撮像条件や範囲を指定する医師の経験などが重要となります。
治療方法と治療期間について
脊髄損傷に至った場合、解剖レベルで健常まで回復させるのは現在の医療では不可能です。
よってリハビリテーションによる機能回復を図ります。
また障害の種類や程度によりリハビリテーションの期間は異なります。
施される多くの手術は、現在の症状の治癒を目指すというよりは、脊髄損傷の症状増悪などの予防目的や椎体骨折などの合併損傷の治療のために実施されます。
認定される後遺障害等級の種類について
脊髄損傷は介護を要する可能性のある病態のため受けられる等級は以下の通りです。
介護を要する後遺障害の場合
等級 | 説明 |
第1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
第1級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
第2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
第2級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
後遺障害の場合
等級 | 説明 |
第1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの |
第1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの |
第3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
第3級4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
第4級6号 | 局両手の手指の全部の用を廃したもの |
第5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
第5級3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
第5級6号 | 一上肢の用を全廃したもの |
第5級7号 | 一下肢の用を全廃したもの |
第6級5号 | 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの |
第6級6号 | 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの |
第6級7号 | 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの |
第7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
第7級5号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
第7級7号 | 一手の五の手指又はおや指を含み四の手指の用を廃したもの |
第7級11号 | 両足の足指の全部の用を廃したもの |
第8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
第8級4号 | 一手のおや指を含み三の手指の用を廃したもの又はおや指以外の四の手指の用を廃したもの |
第8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
第8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
第9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
第9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
第9級13号 | 一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの |
第9級15号 | 一足の足指の全部の用を廃したもの |
第9級17号 | 生殖器に著しい障害を残すもの |
第10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
第10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
第11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
第11級9号 | 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの |
第11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
第12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの |
第12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの |
第12級10号 | 一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの |
第12級12号 | 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの |
第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
第13級6号 | 一手のこ指の用を廃したもの |
第13級10号 | 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの |
第13級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
第14級7号 | 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの |
第14級8号 | 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの |
第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
>>後遺障害の診断書は書いてもらえる?|メリット・デメリットについて
>>後遺障害14級の認定に必要な通院日数は?認定率についても解説
まとめと注意点
脊髄損傷は生活の質に直結する病態です。
後遺障害の認定を受けられる可能性は高いですが、その機能障害の正確に把握し、適切な認定を受ける必要があります。
このためには画像検査を含めて迅速かつ正確な診療が必要です。
医師による画像評価サービスは下記リンクから
画像評価サービス
監修医師
整形外科専門医 西本 圭佑
資格
・整形外科専門医
所属学会・研究会
・日本整形外科学会
・日本救急医学会
・日本人工関節学会
・日本重度四肢外傷研究会
・鶴舞骨折治療研究会(世話人)
2005年
・島根大学医学部整形外科教室 実験助手
2008年
・国立研究開発法人科学技術振興機構地域イノベーション創出総合支援事業 参加
2011年
・島根大学医学部医学科 卒 岐阜社会保険病院(現 可児とうのう病院)
2013年
・名古屋第二赤十字病院 整形外科
2015年
・刈谷豊田総合病院 整形外科
2020年
・岡崎市民病院 整形外科 部長
2021年
・藤田医科大学 救急科総合内科