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2022/09/18

認知症の遺言能力について|判断基準や判例を解説

公開日: 最終更新日:

認知症の遺言能力について|判断基準や判例を解説

遺産の相続トラブルを未然に防止するために役立つ遺言書ですが、効力を発揮させるためにはルールを把握したうえで正しく書類を作成しなければなりません

 

また、遺言書を作成する本人が正しい意思能力をもっていることも大前提となります。

 

しかし、高齢者のなかには認知症を患っている方も多く、このような方が作成した遺言書は法的に認められるのかと不安に感じる方も多いでしょう。

 

実は、認知症であっても診断書や公正証書遺言があれば遺言能力が認められることがあります。本記事では、遺言書の効力が認められるケースとそうでないケースの違いや判断基準について詳しく解説します。

遺言能力とはなにか?

遺言能力とはその名の通り、本人が遺言の内容を理解し、遺言を残すことによってどのような結果や影響がもたらされるかを十分に認識・予測できる能力のことを意味します。

 

仮に、遺言能力がない人に対して強引に迫り作成した場合、本人の意思が反映されているとはいえないことから遺言書は無効となってしまいます。

 

このような事態を防ぐためにも、民法963条では、「遺言者は、遺言をするときにおいてその能力を有しなければならない」とされています。

 

つまり、遺言書を作成する時点で、その遺言書がどういう目的で、どんな効果を発揮するのか理解する能力がある必要があるのです。

 

>>遺言能力の有無に必要な判断基準|医学要素が重要な理由を解説

 

 

遺言能力と意思能力の違い

遺言能力と似た意味をもつ言葉として意思能力があります。意思能力とは、行為の結果を判断するに足りるだけの能力のことをいいます。

 

令和2年4月1日に施行された改正民法第3条の2でも、意思能力を欠く状態でなされた意思表示に基づく法律行為が無効であることが明文化されました。

 

たとえば、ローンを組んで自動車を購入した場合、「ローンの支払期間である◯年は毎月◯万円を継続的に支払わなくてはならない」といった認識をもてることも意思能力にあたります。

 

遺言能力も意思能力のうちのひとつと考えることができますが、遺言能力が遺言という限定的な目的に対する認識の能力が問われるのに対し、意思能力の場合は日常生活における消費行動や契約行動なども対象に含まれるという違いがあります。

遺言書が無効にならないために用意・準備するべきもの

遺言書は高齢になってから初めて作成するというケースが多いですが、本人の健康状態によっては遺言能力が認められず無効となってしまうリスクもあります

 

このような事態を防ぐために、遺言書を作成する際にはどのようなポイントに注意すべきなのでしょうか。

➀医師による診断書

重篤な病気によって長期の入院生活を強いられていたり、自宅での療養生活を送っている患者も少なくありません。

 

また、高齢になると記憶力が低下し、正常な判断が難しくなるケースもあるでしょう。

 

しかし、病気を患っていたり高齢であるからといって、すべての方に遺言能力がないというわけではなく、正常な判断ができるケースは多いものです。

 

本人や家族が遺言能力があると証明するのは難しいことですが、医師の診断書を客観的な資料として、遺言能力の証明をすることができる場合があります。

 

また、記憶力の低下はたびたび認知症と紐付けられる場合が多いですが、必ずしもすべてのケースに当てはまるとは限りません

 

加齢によるもの忘れなのか、認知症であるかをはっきりさせるためにも、医師の診察結果として診断書を作成してもらうと良いでしょう。

 

>>各種裁判における医師の鑑定書・意見書のメリットや役割

②公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人とよばれる第三者が立ち会い作成される遺言書のことです。

 

作成された遺言書は公証人役場で保管され、遺言を残した本人が亡くなった場合には、自筆証書遺言と異なり家庭裁判所における遺言の検認手続きが不要となります。

 

公証人立ち会いのもとで作成されることから、遺言書に記載される内容の不備をなくすことができるほか、遺言作成時に遺言者の意思を第三者が確認するため遺言書そのものの信頼性を担保しやすいメリットがあります。

 

ただし、公正証書遺言は遺言者の意思は確認するものの、遺言能力そのものを確認しているものではありません。

 

立ち合いを行う公証人は、基本的に精神科や認知症の専門医ではないからです。

 

遺言能力を証明しておく必要がある場合には、医師による診断書やカルテなどの情報も準備しておくと良いでしょう。

 

認知症=遺言能力がない?判断基準は?

認知症を患っている方の場合、遺言能力を証明するためには慎重な判断が求められます。

 

まず、大前提として「認知症=遺言能力がない」と断定することはできず、さまざまな要素を判断しなければなりません

 

では、具体的にどのような判断基準があるのでしょうか。

>>認知症における認知機能評価と遺言能力鑑定に必要なもの

➀認知症の病状や進行度

一口に認知症といっても病状はさまざまで、軽度のものもあれば重度のものもあります。

 

医師の診断結果はもちろんですが、遺言書を作成した当時、およびその前後において、本人がどのような行動をとっていたか、どのような病気の症状が出ていたかを分析し判断します。

②年齢

一般的に認知症は年齢を重ねるほど発症しやすくなり、病状も進行していきますそのため、遺言書を作成した当時の年齢も判断材料のひとつとなります。

 

しかし一方で、認知症の症状が現れる年齢は人によっても異なり、一律で判断することはできません。

 

一定の年齢に達したからといって遺言能力が否定されるものではなく、あくまでも参考情報として用いられます。

③遺言書の内容

判断基準の大きな要素となるのが遺言の内容です。

 

一口に遺言といっても、遺産を相続させる人の数や遺産の規模などによって複雑化する場合があります。

 

たとえば、「1,000万円の遺産を一人息子に相続させる」というケースと、「1,000万円の遺産のうち、700万円を息子に、300万円を妻に相続させる」といった場合、後者のケースでは金額の差分に合理的な理由や動機があるかを証明しなければなりません。

 

前者のような場合、遺言の内容はシンプルで分かりやすいことから、仮に認知症を発症していたとしても遺言能力が証明される可能性はあるでしょう。

 

このように、遺言能力の有無は認知症の有無だけで断定できるものではなく、むしろ遺言の内容に応じて個別に判断する必要があるのです。

④遺言書作成までの経緯・動機

遺言書を作成するに至った経緯も重要な判断材料となります。たとえば、家族のなかで特にお世話になった人へ多くの遺産を相続させたいと考えるのは当然のことです。

 

遺言書の内容について整合性があり、合理的であるかどうかも遺言能力を判断する重要なポイントといえるでしょう。

 

認知症でも遺言書による遺言能力が認められた判例

認知症でも遺言能力が認められる可能性があると聞くと、「本当にそんなことが可能なのか?」と疑問を抱く方も多いと思います。しかし、過去には実際に遺言能力が認定された判例も存在するのです。

 

たとえば、2016年1月に東京地裁で認められた判例では、「以前に作成した遺言を撤回し、相続人1人に対して遺産を相続させる」という遺言の有効性が争われましたが、その内容が極めてシンプルであったことから、認知症であったとしても十分な判断が可能であると認められました

認知症の方の遺言書が無効になった判例

上記とは反対に、認知症であることが影響し遺言能力が無効となった判例もあります。

 

たとえば、1998年10月の東京地裁での判例では、遺言書の文面が整っておらず趣旨もあいまいな記述が多かったことから、遺言能力がないと判断されました

 

さらに、2009年8月の東京高裁での判例では、アルツハイマー病と脳梗塞の合併症患者が作成した遺言書について、遺言能力がないと判断されました。この裁判では、「改訂 長谷川式簡易知能評価スケール」を用いた診断結果が根拠となり、客観的に見て遺言能力がないと判断されることとなりました

 

このように、認知症の方の遺言能力を問う裁判は過去に多く実施されており、無効と判断されるケースは少なくありません。

認知症の疑いがあった故人が書いた遺言書が出てきた場合はYKRへ

日本人の平均年齢が80歳を超えた現在、加齢とともに認知症を患う方も少なくありません。

 

認知症を発症した方、もしくは認知症の発症が疑われる方の場合、十分な意思能力が認められない可能性もあり、特に相続を左右する遺言においてはトラブルの元となる可能性もあります。

 

認知症を発症していた、もしくは認知症が疑われる方が亡くなった後、遺品のなかから遺言書が出てきた場合には、それが有効なものであるかどうかを判断するためにも遺言作成時の遺言能力を調べる必要があります。

 

遺言能力の鑑定には法律的な知識はもちろんのこと、医師による客観的な判定も求められます。YKRでは、専門医のもとで遺言能力鑑定を行っており、裁判資料としても活用できる遺言鑑定意見書の作成も可能です。

 

 

まとめ

今回紹介してきたように、認知症を発症している患者もしくは認知症が疑われる方が作成した遺言書は、遺言能力の有無が大きな争点となります。

 

ただし、認知症=遺言能力がない、と断定できるものではなく、専門的な見地から個別に判断しなければなりません。

 

遺言意思能力鑑定を請け負っているYKRでは、オンラインでの無料相談会も随時実施しているおります。

 

もし相続に不安がある方はお気軽にご相談ください。

 

>>遺言能力の有無に必要な判断基準|医学要素が重要な理由を解説

>>認知症における頭部MRIによる評価と遺言能力鑑定に必要なこと

 

この記事の監修者

不破 英登

経歴
2009愛知医科大学医学部医学科
津島市民病院
2011名古屋第二赤十字病院 放射線科
2016名古屋市立大学大学院医学研究科 放射線医学分野 助教
2018豊田若竹病院 放射線科
YKR medical consult設立
2018家来るドクターJAPAN株式会社 顧問医師
2021YKR medical consult 代表就任
 【資格】
産業医・放射線科診断専門医

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