PCL(後十字靭帯)断裂の症状や受傷機序、診断について
目次
PCL(後十字靭帯)断裂とは
後十字靭帯(PCL)は前十字靱帯(ACL)とともに膝関節を構成する重要な靱帯です(図1)。
この靱帯はACL(前十字靱帯)よりも太く、斜めに走行することなく鉛直方向に大腿骨と脛骨を結びます。
PCL(後十字靭帯)は屈曲、進展いずれにおいても張力がかかりますが、太い構造であるため他の膝靭帯に比べて単独損傷は稀であり、PCL断裂がある場合、他の損傷を伴うことがほとんどです。
受傷機序について
太い靱帯であるためスポーツによる受傷は少なく、多くが大きな外力のかかる交通外傷で起こります。
有名なものとしてDashboard損傷と呼ばれる、脛骨前面に対して直達外力がかかることで起こる傷害があります(図2A)。
PCL(後十字靭帯)が断裂してしまうものがあります。
このほかに膝関節の過伸展による張力によって断裂してしまうパターンもあります(図2B)。
ともに骨にも異常を伴うことがあります。
上述したように大きな外力によって起こるため、他の膝構造の損傷を伴うことが多いです。
症状について
通常膝の脛側に受傷に伴う皮膚損傷を伴うことが多く、関節の腫れ(関節内での出血)を認め、膝裏にも皮下出血や圧痛を認めることがあります。
膝立ての際、下腿が後方へ落ち込んでいるように見える(sag sign)ことがあります。
この姿勢から脛を後方に押し込むと激痛が生じることが多いです。
前十字靭帯損傷に比較し、膝の症状や機能障害が少ないのですが、後方への不安定性の強いものでは、スポーツや階段昇降などで不安定感や膝痛を訴えることがあります。
PCL断裂(後十字靭帯断裂)の診断について
PCL断裂(後十字靭帯断裂)そのものの症状は乏しいですが、ほかの膝構造の損傷に伴うことが多いため、画像診断(特にMRI)において副次的に診断可能です。
PCLは太く、斜めに走行することのない構造であり、MRIでの正常PCL(後十字靭帯)を同定できないことはまずないため、PCL(後十字靭帯)に異常所見そして靱帯そのものを評価するMRIが撮像されます。
CT
CTではPCL損傷(後十字靭帯損傷)に伴う脛骨付着部の骨折の診断に有効なことがありますが、まずは単純X線写真(レントゲン)で評価されることが多いです。
単純X線写真
CTの項目で述べたようにPCL損傷(後十字靭帯損傷)に伴う脛骨付着部の骨折の有無や、その他の構造の損傷を確認する際にレントゲン写真が撮影されます。
一般的には多方向のレントゲン写真が撮影されることが多いです。
MRI
MRIはPCLの構造を捉えられる画像検査です。
PCL(後十字靭帯)は、ACL(前十字靱帯)とは異なり、まっすぐ鉛直方向に走行するため、横から見た画像(矢状断像)で捉えやすい構造です(図3)。
このため矢状断像で正常PCL(後十字靭帯)を同定できないことはまずないため、PCL(後十字靭帯)に異常所見が見られる場合は、真に異常と考えても問題ありません。
またPCL(後十字靭帯)の他にも受傷機序に応じた骨の所見も診断の手がかりになることがあります。
しかし誤ってPCL損傷(後十字靭帯損傷)と評価してしまうケースがあります。
例えばPCL(後十字靭帯)を横切るように細かい正常靱帯(Wrisberg靱帯、Humphrey靱帯)が走行し、これらの構造をPCL(後十字靭帯)の異常と捉えてしまうパターンや、magic angle effectと呼ばれるMRIのアーチファクトをPCLの異常と捉えてしまうことがあります。
このほかにもACLと同様に変性によっても異常所見を呈します。
例えば加齢や繰り返す微小損傷によりPCL(後十字靭帯)に変性を来し、あたかもPCL断裂(後十字靭帯断裂)のように見えることがあります。
このためPCL(後十字靭帯)単独の異常所見は外傷に伴う変化とは言い難いです。
身体所見や理学所見から診断してくことの難しいPCL断裂(後十字靭帯断裂)においては、正しい画像診断能力が要求されます。
治療方法と治療期間について
断裂がみられる場合でも症状が乏しければ保存的に様子をみるケースも多いです。
膝の不安定性など症状が著しい場合、再建術が施行されます。
認定される後遺障害等級の種類について
交通事故によるPCL断裂は後遺障害として等級認定可能です。
後遺障害の等級は以下の表の通りです。
等級 説明
- 第10級10号 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
- 第12級6号 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
- 第12級13号 局所に強固な神経症状を残すもの
- 第14級9号 局所に神経症状を残すもの
>>後遺障害の診断書は書いてもらえる?|メリット・デメリットについて
>>後遺障害14級の認定に必要な通院日数は?認定率についても解説
まとめと注意点
PCL損傷(後十字靭帯損傷)はスポーツよりも交通事故によって起こりやすい疾患です。
膝関節の稼働制限はACL断裂(前十字靱帯断裂)ほど重篤ではありませんが、有症状の場合は生活障害になりえます。
ACL断裂(前十字靱帯断裂)と同様に交通事故後の症状の場合、後遺障害の判定を受けられる可能性があるため、適切な評価が必要です。
そのためには正確な画像診断が要求されます。
従いまして交通事故後に症状がある場合には詳細の受傷機転の把握とともに適切な画像評価を受けられることを推奨します。
ACL断裂の症状や受傷機序、診断についての記事は下記をお読みください。
>>ACL断裂(前十字靭帯断裂)の症状や受傷機序、MRIによる診断について
監修医師
整形外科専門医 西本 圭佑
資格
・整形外科専門医
所属学会・研究会
・日本整形外科学会
・日本救急医学会
・日本人工関節学会
・日本重度四肢外傷研究会
・鶴舞骨折治療研究会(世話人)
2005年
・島根大学医学部整形外科教室 実験助手
2008年
・国立研究開発法人科学技術振興機構地域イノベーション創出総合支援事業 参加
2011年
・島根大学医学部医学科 卒 岐阜社会保険病院(現 可児とうのう病院)
2013年
・名古屋第二赤十字病院 整形外科
2015年
・刈谷豊田総合病院 整形外科
2020年
・岡崎市民病院 整形外科 部長
2021年
・藤田医科大学 救急科総合内科