ACL断裂(前十字靭帯断裂)の症状や受傷機序、MRIによる診断について
目次
ACL断裂とは
前十字靭帯(ACL)は膝関節を構成する重要な靱帯です(図1)。
この靱帯は膝の屈曲、進展の安定性に寄与するため、断裂すると膝関節が不安定になります。
ACLは過伸展や過屈曲時に損傷しやすい靱帯です。
受傷機序について
多くはスポーツによる受傷が多い疾患です。
例えばスキーの転倒時における膝関節の外旋、外反、屈曲や急な走行動作の停止や跳躍時にも起きます。
また上記で述べたように過伸展においても損傷しやすいです。
追突事故によっても起こりうる疾患です。
症状について
膝前方の痛みと膝の曲げ伸ばしで生じる痛みを呈することがあります。
安静や温めることで症状がわずかに緩和される一方で、持続的でうずくような痛みが出現します。
この痛みにより睡眠障害を引き起こされることもあります。
受傷時には激痛とともに膝がぽんと弾かれるような感覚を生じ、膝が抜けるような感覚も自覚されることがあります。
数時間のうちに関節が腫れてきます(関節内血種)。
半数程度が半月板損傷を合併することもあり、これによる所見で臨床像が複雑化することもあります。
また膝周囲の既往が併存する場合にも同様複雑な臨床像を呈する場合があります。
ACL断裂(前十字靭帯断裂)の診断について
理学的所見として重要なのは前方引き出しテスト、ラ ックマンテスト、Pivot shift testです。
これらの所見が認められ、ACL断裂が疑われた後に画像診断が行われます。
まずは骨折の有無を確認するため単純X線写真が撮影されることが多いです。
そして靱帯そのものを評価するMRIが撮像されます。
CT
CTではACLの構造をとらえることは不可能です。
ACL断裂(前十字靭帯断裂)に症状の似る脛骨果間隆起骨折の確認を行う際に撮影されることがありますが、まずは単純X線写真(レントゲン)で評価されることが多いです。
単純X線写真
CTの項目で述べたようにACL断裂(前十字靭帯断裂)に症状の似る脛骨果間隆起骨折の有無を確認する際にレントゲン写真が撮影されます。
一般的には多方向のレントゲン写真が撮影されることが多いですが、角度によっては評価が難しいケースも存在します。
MRI
MRIはACL(前十字靭帯)の構造を捉えられる画像検査です(図2)。
ACL(前十字靭帯)をターゲットとした撮像を行えば出来上がった画像自体に問題があることは少ないですが、画像診断に関しては苦慮することがあります。
病歴や理学所見からACL断裂(前十字靭帯断裂)が疑われ、完全断裂を示す画像所見であれば診断はそこまで難しいものではありません(図3)。
しかしACL(前十字靭帯)は加齢に伴う変性や過去の繰り返す微細な損傷によっても断裂に類似した所見を示すことがあります。
また、部分断裂の場合は画像の評価に苦慮することが多いため、画像診断前の病歴と理学的所見が極めて重要だと言えます。
ACL(前十字靭帯)そのもの以外に骨などにも異常を伴うことがあり、副所見を診断の一助とすることもしばしば経験します。
治療方法と治療期間について
断裂がみられる場合は靱帯再建術が施行されることが多いです。再建後は定期的に画像検査によって経過観察されます。
認定される後遺障害等級の種類について
交通事故によるACL断裂(前十字靭帯断裂)は後遺障害として等級認定可能です。
後遺障害の等級は以下の表の通りです。
等級 説明
- 第10級10号一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
- 第12級6号一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
- 第12級13号局所に強固な神経症状を残すもの
- 第14級9号局所に神経症状を残すもの
>>後遺障害の診断書は書いてもらえる?|メリット・デメリットについて
>>後遺障害14級の認定に必要な通院日数は?認定率についても解説
まとめと注意点
ACL損傷(前十字靭帯損傷)はスポーツだけでなく交通事故によっても起こりうる疾患です。
膝関節の稼働制限は重大な生活障害になるため適切な診断と治療が必要です。
特に交通事故後の膝関節の症状の場合は、後遺障害の判定を受けられる可能性があるため、適切な評価が必要です。
しかし他の交通事故後の損傷と同様に、時間が経ってから画像検査を行っても変性による断裂と評価されることがあります。
一方、骨の異常所見など副所見と合わせて評価可能であることがあります。
よって、交通事故後に症状がある場合にはすみやかに身体所見の評価、画像検査を受けられることを推奨します。
監修医師
整形外科専門医 西本 圭佑
資格
・整形外科専門医
所属学会・研究会
・日本整形外科学会
・日本救急医学会
・日本人工関節学会
・日本重度四肢外傷研究会
・鶴舞骨折治療研究会(世話人)
2005年
・島根大学医学部整形外科教室 実験助手
2008年
・国立研究開発法人科学技術振興機構地域イノベーション創出総合支援事業 参加
2011年
・島根大学医学部医学科 卒 岐阜社会保険病院(現 可児とうのう病院)
2013年
・名古屋第二赤十字病院 整形外科
2015年
・刈谷豊田総合病院 整形外科
2020年
・岡崎市民病院 整形外科 部長
2021年
・藤田医科大学 救急科総合内科