脳挫傷による後遺障害認定:医証と診断書作成の実務ポイント
交通事故や労災で脳挫傷の重傷を負った被害者では、治療後も様々な後遺症が残りうるため、適切な後遺障害等級の認定が極めて重要です。
ところが、医学的根拠の不十分さを理由に非該当・低等級と判断されてしまい、十分な補償が得られないケースも少なくありません。
ここでは、脳挫傷による後遺障害認定で押さえるべきポイントを、医学的・法的観点から実務的に解説します。
弁護士など法律実務家の方々が後遺障害等級を獲得するために役立つ情報をまとめました。
目次
脳挫傷で想定される後遺障害の類型と等級の目安
脳挫傷によって生じる代表的な後遺症としては、高次脳機能障害(記憶障害・注意障害・人格変化などの認知障害)、遷延性意識障害(いわゆる植物状態)、外傷性てんかんなどが挙げられます。
これらは自賠責保険や労災保険における後遺障害等級の認定対象となり、それぞれ症状の重さに応じた等級が定められています。
以下に主な類型と等級の目安をまとめます。
後遺障害の類型 | 認定されうる等級の目安(症状の程度) |
高次脳機能障害 (脳外傷による認知・行動障害) | 1級〜9級(症状の重篤度により幅広く該当。 常時介護が必要な最重度で1級、労務不能な程度で3級、軽易労務に限定される程度で7級、労務制限が残る程度で9級など。 軽度で日常生活に大きな支障がない場合、12級・14級が適用されることも) |
外傷性てんかん (事故による脳損傷が原因のてんかん発作) | 5級〜12級(発作頻度や症状の程度によって異なる。 例:月1回以上の重い発作で5級、数ヶ月に1回程度なら9級、発作はないが脳波に棘波がある軽微例で12級など) |
遷延性意識障害 (長期にわたり意識が戻らない状態) | 1級または2級(自力で移動・摂食できず常時介護が必要な場合は要介護の1級相当。 わずかに意思反応があるなど若干軽い場合でも2級が検討される) |
その他の神経症状 (脳挫傷痕による局所症状など) | 12級程度(MRI画像で脳挫傷の痕跡が確認でき、慢性的な頭痛・神経痛等が残存するケースでは「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が該当) |
※上記等級はあくまで目安であり、障害の内容や日常生活への支障度合いにより総合判断されます。
例えば、高次脳機能障害に半身麻痺など身体障害を併発している場合は、併合等級としてより重い等級が認定されることもあります。
後遺障害が認定されにくい理由
脳挫傷による後遺障害は重大なものである一方で、認定のハードルが高いことも指摘されています。
以下のような要因により、適切な等級認定が得られず非該当や過小評価となるケースが多いため注意が必要です。
画像上の異常所見が乏しい
脳挫傷でも、早期にMRI検査を行わなかった場合などは脳の損傷を示す明確な画像所見が残らないことがあります。
CTのみの検査では微細な損傷が見落とされるケースも多く、客観的証拠に欠けるとして認定が困難になります。
症状が主観的で証明しにくい
記憶力低下や人格変化、頭痛やめまいなど高次脳機能障害の症状は一見わかりづらく、本人の自覚や家族の訴えに頼る部分が大きいです。
このため他覚所見や検査データが不足していると、実際には症状があっても「医学的に証明できない」と判断され非該当になる恐れがあります。
診断書の記載不足
後遺障害診断書の内容不備は認定不能・低等級の最大の要因です。
後遺障害等級の審査は基本的に医師の診断書に記載された自覚症状・他覚所見に基づいて行われるため、記載が不十分だと実際の症状に見合った評価が受けられない可能性があります。
例えば「頻繁に記憶を失う」症状があるのに「物忘れあり」程度の記載に留まっていると、症状の深刻さが正しく伝わらない恐れがあります。
事故との因果関係の疑義: 初診時の診断内容や症状経過も重視されます。
事故直後の診断名が「脳震盪」程度で画像上異常なしだった場合、後から高次脳機能障害の症状を訴えても事故との因果関係が疑われやすいです。
また、事故後しばらく経ってから症状が出現したケースでは、「本当に事故が原因か?」と見られてしまいがちです。
初期記録に症状の記載がない、あるいは事故前から類似症状があったなどの場合も認定に不利に働きます。
以上のように、「客観的な医証不足」や「書面上の詰めの甘さ」があると後遺障害は認定されにくくなります。
適切な等級を得るには、これらのハードルを意識して証拠を整えることが重要です。
後遺障害認定に有利となる医学的根拠・医証
では、脳挫傷による後遺障害の認定を確実に得るためには、どのような医学的根拠(エビデンス)や医証を準備すべきでしょうか。
ポイントとなる主なものを挙げます。
画像検査結果の提示
MRI画像などで脳の器質的損傷を確認できることが有用です。
高次脳機能障害は脳の器質的病変に基づく障害であるため、MRIやCTでその病変の存在が認められることが必要と公式にも定められています。
事故後できるだけ早期にMRI検査を受け、脳挫傷やびまん性軸索損傷などの明確な所見を残しておきましょう。
時間経過で損傷が萎縮に移行する場合もあるため、経時的な画像追跡も有用です。
神経心理学的検査の結果
高次脳機能障害の症状を客観的に数値化するために、専門的な神経心理学的検査を受け、その結果を証拠として提出することが強く推奨されます。
代表的な検査としてWAIS-Ⅳ(知能検査)やWMS-R(記憶検査)があり、認知機能低下の程度を定量的に評価できます。
例えば知能指数(IQ)や記憶力スコアの低下が示されれば、単なる主観的訴えではなく医学的に障害を裏付ける資料となります。
これらの検査結果は後遺障害等級の判断資料として重要視される傾向があります。
専門医による詳細な意見書
後遺障害診断に精通した専門医による医学的意見書は、認定審査や裁判で強力な証拠となります。
治療経過や検査結果を踏まえ、症状が事故に起因することや障害の程度・日常生活への影響を論理的に示した意見書があれば、認定機関に対して客観的かつ専門的な裏付けを提供できます。
実務上も、後遺障害等級の事前認定に際して意見書を添付することでスムーズに高い等級が認められた例は少なくありません。
万一初回認定で非該当だった場合でも、新たに専門医の意見書や追加検査結果を提出すれば異議申立てで等級が覆るケースもあります。
日常生活状況報告など他の資料
家族などが作成する日常生活状況報告書や職場の復職状況報告なども重要な補強資料です。
高次脳機能障害は日常生活動作や社会適応に支障を来す障害なので、具体的なエピソードや支障の実態を示すことで、審査側に障害の深刻さを伝えられます。
これらは医学的検査結果と相まって総合的な判断材料となります。
以上のように、「画像所見」「検査データ」「専門医の見解」の三本柱で医学的根拠を固めることが、後遺障害認定を有利に進めるカギとなります。
裏を返せば、これらが欠けていると認定が難しくなるため、早い段階から戦略的に医証収集を進めるべきです。
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