胸郭出口症候群の症状や診断方法、治療について解説
交通事故の上肢症状の中で、頸椎神経根障害は検討に挙がりやすい病態です。
しかし、上肢症状を抱える症例の中で、症状の範囲、程度として、神経根障害にそぐわないものや、画像上神経根障害を認められないものも存在します。
時に「神経根障害とは言い難い」などと表現されるこれらの病態を考えるとき「胸郭出口症候群」がその答えとなるかもしれません。
胸郭出口症候群(TOS)は認知の低い病気のひとつです。
この症候群は神経や血管が胸郭出口と呼ばれる部位で圧迫されることにより、上肢に痛みやしびれ、運動障害など機能障害を生じます。
胸郭出口は首の根本に位置する頸部の骨、筋で構成される領域で神経や、血管が走行します。
この部位で神経や血管が圧迫されることで様々な症状を呈するといわれています。
圧迫の原因はおもに、解剖学的な破格(異常:余計な骨がある、血管の走行異常)や、体格体形(首が長い、なで肩、首がまっすぐなど)、胸郭出口を構成する筋肉緊張などが挙げられ、これらが組み合わさることで、血管や神経に圧迫を生じ、症状を呈することになります。
胸郭出口症候群の症状
胸郭出口症候群の症状は多岐にわたりますが、主に頸部から肩、腕などの上肢にかけての痛み、しびれなどが多いです。
その他、筋力の低下なども伴う場合があります。
これら症状は、頚肩腕の他神経血管疾患とも類似するものも多いです。
特に頸部の神経根障害、頚髄障害などは障害される神経が部分的に共通であるため、時として鑑別が困難です。
胸郭出口症候群の診断方法
胸郭出口症候群の診断は神経学的徒手検査と除外診断(類似疾患の否定)によって行われます。
しかしながら前述にように類似の症状を呈する疾患もあり、容易ではありません。
解剖学的な破格を背景に持つ場合、画像診断は補助的な役割を果たしますが、解剖学的破格を背景に持たない場合、画像で診断に至ることは不可能です。
JacksonテストやSpurlingテストといった一般的に取得される神経学的徒手検査や神経伝導速度などの生理学的検査は正常である(もしくは陽性でも有意ではない)ことが多いです。
Morleyテスト、Adsonテスト、Roosテスト、Wrightテストといった胸郭出口症候群に特徴的な神経学的徒手検査もありますが、特化した検査であるため、医師が積極的に胸郭出口症候群を疑わなければ取得困難で、これらの取得が無ければ確定診断には至れません。
胸郭出口症候群の治療法
胸郭出口症候群の治療は原因ごとに異なりますが、物理療法や薬物療法、手術加療が一般的です。
特定の姿勢や動作を避けたり、定期的なリハビリテーションなど運動やストレッチが必要な場合があります。
胸郭出口症候群の難しいところ
胸郭出口症候群はその多彩な症状の為、しばしば詐病を含む誤診がなされることが多いです。
特に軽症の場合、日常生活に大きな支障が無いため訴えとして表出されにくく、医師も患者も気づきにくいことが多いです。
また積極的に胸郭出口症候群を疑わなければ診断に至ることができないため、原因不明の神経症状として扱われることも少なくなく、こと交通事故後の後遺障害診断においては医師と患者を悩ませることになります。
この記事の監修者
不破 英登
経歴
2009 | 愛知医科大学医学部医学科 津島市民病院 |
2011 | 名古屋第二赤十字病院 放射線科 |
2016 | 名古屋市立大学大学院医学研究科 放射線医学分野 助教 |
2018 | 豊田若竹病院 放射線科 YKR medical consult設立 |
2018 | 家来るドクターJAPAN株式会社 顧問医師 |
2021 | YKR medical consult 代表就任 |
【資格】 産業医・放射線科診断専門医 |