認識機能低下の可能性を指摘されている鑑定対象者には、今後不動産取引を行いたいという希望があった。後に法廷闘争を生じさせないよう、取引前に事理弁識能力について鑑定を受けたいという本人の意思のもと、これまでに受けた医学的な診察結果や検査結果を精査し、鑑定を行った。
鑑定対象者はアルツハイマー病理が推定される軽度認知障害(MCI due to AD)あるいは軽度アルツハイマー型認知症であるが、認知機能低下は限定的であり、不動産取引を含めた自己財産の把握および処分に必要な事理弁識能力は十分に保持されていると考えられる。
・診療録および心理検査記録
・画像検査記録:頭部MRI、脳血流シンチグラフィー
本鑑定は、弊社所属の神経内科専門医・精神科専門医・認知症専門医・放射線診断専門医により総合的に判断されたものである。具体的には、①神経心理学的検査では、鑑定対象者が過去に受けた、長谷川式認知症スケールとMMSE(ミニメンタルステート検査)、そのほか、②身体所見・神経学的所見を診療録から、③頭部MRI所見、④脳血流SPECT所見、⑤本人の日常生活動作、⑦診療録を参照し、鑑定対象者はアルツハイマー病理が推定される軽度認知障害(MCI due to AD)あるいは軽度アルツハイマー型認知症と判定した。
もっとも、アルツハイマー型認知症に伴う記憶障害は、直近のエピソード記憶の低下に代表されるような近時記憶の低下であり、ある程度過去の記憶については保たれる。アルツハイマー型認知症と判定したことをもって、不動産取引に必要な事理弁識能力を欠くとはいえない。
よって、客観的な神経心理学的検査によって示される認知機能低下は限定的であり、同程度の認知機能低下であれば、鑑定主文の通り、不動産取引を含めた自己財産の把握および処分に必要な記憶や理解・判断は十分に可能と考えられ、事理弁識能力は保たれていると鑑定した。