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事故以前は毎日のように運動をしていた90代の被害者が、横断歩道を横断歩行していたところ、時速約60kmで直進進行してきた被告車両と衝突し、2m程飛ばされ骨盤骨折ほか受傷したのち数か月後に死亡した。事故を契機に全身状態・栄養状態の低下を含む心身の機能低下を来して、相当期間経過後に死亡した事件。
「死亡診断書上、直接死因が「老衰」、死因の種類が「病死及び自然死」とされていることから、被害者の死亡が本件事故との相当因果関係を有するものか否かについて慎重な検討が必要」となる。本件事故後死亡に至るまで一貫して入院・入所していたこと、事故から死亡日までの期間が1年弱であり、時間的近接性を否定しがたいことも踏まえると、事故外傷およびそれに伴う治療が、被害者の死亡に影響を与えたことを完全には否定できないという理由で、本件事故と死亡との相当因果関係については判断困難として、認定は避けられていた。
被害者は事故の1年弱後に死亡しているものの、本件交通事故により被害者は死亡に至る程の傷害を負った結果として死亡したものであることから、本件事故と死亡との因果関係があることを意見していただきたい。
Evaluation
この意見書は、放射線診断・整形外科・総合内科・神経内科などを専門とする医師がそれぞれ鑑別を行い、合同カンファレンスを行い作成した。
次に、運動予後については、骨盤骨折は通常術後1年においても元通りの運動を発揮できるものは50%未満で一般的には歩行能力が1段階低下するといわれていることを示した上で、事故前に山に毎日登ることができた運動能力が、本件事故を経て最終的に車いす移乗軽介助、手引き歩行50m程度まで歩行能力が低下していることは1段階以上の著しい低下であると意見し、受傷の侵襲が全身状態や運動機能に影響したものと判断した。
死亡診断書は本来であれば病前より担当していた医師が臨死に際して作成するものである。本件において、死亡診断書作成医師は死亡直前に引き継ぎを受けたことになっているが、実際は事前に情報を得ていたのみであり、死因は「老衰」と記載された。この死因は臨死において交通事故という既往も特に加味・検討されないままに死亡診断書を作成したことは明白であった。
このほか、厚生労働省の発行する死亡診断書記入マニュアルや医師聴取書を参照したうえで、本件における死亡診断書が残念ながら証拠としての価値は極めて低いものと指摘した。。
95歳時点での男性の平均余命は2.94年であるところ、もともと自宅で自立して生活していた95歳男性が、事故後1年弱で亡くなったことは統計値と比べても明らかに短いことを示した。受傷機序、臨床経過からしても決して「老衰」という言葉で説明ができるものではなく、少なくとも平均余命と比べての損失が補償されるべきであることを意見した。
Opinion
本件の画像評価の一部を掲載する。
・意見 内科的評価に関して、上記画像から筋量に関して、大腿周囲の筋萎縮にも進行がみられる(左図 CT:18.2mm、右図 :20.5mm ※おおよそ同高位と思われる水平断比較、腸骨筋サイズは参考値)。
これらのCTで確認できる所見は、受傷後1ヶ月で各筋肉の径が1割程度萎縮したことを示す。自然経過では説明が極めて困難であり、事故で生じた骨折による活動低下による萎縮である。前述CT画像からも事故によって骨折だけでなく二次的に筋萎縮を来したため歩行能力が悪化したと判断した。
Appraisal results
95歳という高齢による脆弱性は考慮されてもよいものの、現実に事故以前の被害者が毎日のように山登りをしていた健康状態等諸般の事情を鑑みると、今回の男性の死亡年齢は平均余命よりも遥かに短く、事故後の状態不良から死亡に至るまでの関連性は十分に認められると意見した。そもそも事故後、自宅に退院することなく最期を迎えることになったという事実がある。このことからも事件と死亡との因果関係が認定され、適切な補償が行われるべきであると意見した。
Voice
裁判所において因果関係がかなりの部分認められたため、解決金額が大幅アップし、依頼者にも喜んでいただけました。ありがとうございました。